夕方も近くなり眠くなって、釣り糸を垂らしたままうたた寝していた私は、ペスちゃんが淡水エイを掛けてファイトしている声で目が覚めた。

釣れたの~?がんばれぇ~とやる気のない声援を送り、(もうね、眠くて仕方が無いの、私はもうひと眠りしますから、おやすみなさい).....と、もう一度ゴロンと横になった。

すると間もなく、遠くで糠団子をぶっ込んでいたガイドが何やら叫びながら手を振っている。魚が掛かったようだ。


まじか.....。


正直ちょっと面倒くさくなっていたわたし。う~ん.....と寝ぼけたふりをしていると、ペスちゃん&シゲさんから「いってこい」の視線。


(はい、行きます、釣ってきます...。)


眠たいのもあったけど、もう自分にとっては素晴らしい魚たちを6~7種類は釣っていたし、結構満足してしまっていた。けれどそこには笑顔のガイド。渡される竿。対岸まで引き出されピンと張り詰めたライン。

しゃーない、ちょちょいと釣ってやりましょか〜。そんな甘っちょろいスタンバイでヘロヘロとファイトを始めたのです。

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2~3分経ったあたりで何かが変な気がしてきた。これまでの魚とちょっと様子が違う気がする。といっても、それまでは6ヒット6魚種という感じで、毎度毎度釣れてくる魚種が違うもんだから、その度にはじめましての釣り味だったけれども。これまでの魚たちとは明らかに何かが違う。動きが鈍い。遅い。そんで重い。

そんなところで、ポンドのボスBennyちゃんが小屋のほうから歩いてきた。紹介していなかったけれどBennyちゃんはオーナーの奥さんで、パームツリーラグーンの裏ボスと言っても過言ではない最強おばちゃん。そのBennyちゃんがニコニコこっちへ近づいてきて、おもむろに私の腰のあたりにギンバルをつけた。

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私の頭はハテナだらけだったけど、ちょっと嫌な予感がした。何も言わず立ち去ろうとするBennyちゃんに「この魚なに?」と尋ねると
にっこり笑顔をつくって「MEKOOOOOOOOON!」と答えた。


オーーーマイガーーーーッッッ!!!!!


立ち去るBennyちゃんの後ろ姿には「さっ、頑張りなさい♪ふふふ」という含み笑いが写って見えた。私もアハハハ.....と笑い返したけど、顔はかなり引きつっていたと思う。

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後ろに写ってるのが裏ボスBennyちゃん。見るからに強そうだ。



生まれて初めてのメコンオオナマズとの対峙、でも私の胸中はどんよりだ。前情報で「メコンは釣っちゃいけない」と聞いていたから。いや、釣っちゃいけないなんてことは勿論ないのだけれど、その理由が問題だった。


(以下、前日のペスちゃん談)
――――――――ー…
「パームツリーでメコン掛けるとドラグずるずるで何時間もファイトさせられんねん。あっこは魚をめっちゃ大事にするからなー、勝手にドラグ閉めると怒られるしめっちゃキツイねん。結局何時間もかかるからメコン掛けてしまったらその日一日終了やしなー。ま、わざわざパームツリーで釣らなくても後日ブンサムランでなんぼでも釣れるし、掛かってしまったらしゃーないけど災難やわ。」.....

......。


....掛けてしまいましたけど。どうすんのよこれ。



5分経ち、10分経ち、15分経ち、寄せては走られを繰り返す。そのうちエイの写真撮影を終えてペスちゃんとシゲさんも対岸から歩いてきた。
(あーあ、やってもーたな~。ニヤニヤ)っていう顔をして近づいてくる。


チッ。


魚を掛けてるのにおみくじで凶を引いたような気分。でも掛かってしまったもんは仕方が無い。ありがたく何時間でも戦ってやろうじゃないの。腹を決めて挑んだ。

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30分経ち、40分経ってもメコンは顔を出さない。いや、寄ってはくるんだけれど、岸が近づいてくると人間の気配で驚くのか、再び猛然と対岸へ向かってダッシュしてしまうのだ。3~4回それを繰り返した頃には、いい加減こちらもヘロヘロになってきた。

ただでさえ30℃近い気温の中だ、汗だくでファイトするわたし、素手で握る竿がつるつる滑る。あまりに滑るのでペスちゃんとシゲさんに私のグローブを持ってきてくれないかと頼んだ。二人は快く承諾してくれてグローブを取りに行ってくれた。

私はそのまま闘いを続ける。正直もうだいぶ腕が疲れた。(メコンさんもう勘弁してください...)心の中ではもう白旗を振りたい気分だった。だんだん握力も弱くなってきた。というかとにかく手が汗でつるつる滑るんだ。ツナロッドよりも馬鹿デカイ竿のバッドを素手で握っていた。しかもグリップが長すぎる。写真を見て頂くと解るように、ロッドエンドをギンバルに当てがうと、リールフットのすぐ上を握っても、腕を伸ばし切った状態になる。その態勢しかとりようが無いので無駄に力が消耗する。

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ぐぬぬぬぬぬぬぬ



まじで手が滑る。だんだん焦ってきた、本気でつるっと竿を放してしまいそう(汗汗汗汗)このまま竿を離したら終わりだ。必死にタイ人ガイドのほうを見る。手を貸す気は無さそうだ。というか多分この緊急事態は伝わっていない。しかも彼に英語は通じない。大声で駐車場のペスちゃんを呼んだ。


「た~~すけてくれぇ~~~~~!!!!」


ペスちゃんはすぐに走ってきてくれて、一旦竿を支えてくれた。私の荷物からグローブがなかなか出てこなかったみたいだ。あの時ほど自分のずぼら加減を呪ったことは無かった。汗を拭ってグローブをはめてファイトを再開した。劇的に力が入りやすくなった。生まれて初めて、竿を放してしまうかもしれないという恐怖からようやく脱して胸を撫で下ろした。.....のも束の間だった。

1時間くらい経ったあたりで今度は本当に腕がぶっ壊れそうになってきた。ひとつ問題があった。恐ろしくずるずるなドラグだ。いくら寄せても簡単にドラグが出てしまうので一向に魚が疲れない。耐えきれずシゲさんに「ブレーキを閉めてもいいか?」と通訳して貰った。Bennyちゃんが近づいてきてドラグを確認し「hmm..そのままでOKよ」という合図をした。がっくし...。淡い期待は一瞬で散った。

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魚が寄らない理由はもうひとつあった。メコン様はデカイ。陸には揚げられない。だからガイドが巨大な網を持って、ランディングをするべく早々と水の中に浸かって待ち構えていてくれるんだけど、魚が岸に寄りきらないうちに入っちゃうもんだから、明らかにそれにビビッて逃げてしまっている様子だった。しかもBennyの愛犬も一緒だ。ガイドと一緒に犬掻きでメコン様を待ち構えてくれている。魚との距離がまだあと10mは残っているのにドッボーンっと池に飛び込んでしまうガイドと犬。再び対岸へ走るメコン。しまいにはキャッキャッと水遊びを始めるガイドと犬。疲れ果てて半ギレの私。


(ちっくしょーー・・・・・絶対ガイドと犬にビビッて走ってんだろこれ...)






何度そのやり取りを繰り返しただろう...とっぷり日も暮れて辺りは真っ暗だし。もう本当に無理なんですけど。わたしの中の何かがプチッと切れて、(ちょっとだけ...)とキュッとドラグを絞めてみた。バレないように。

するとどうだろう。あんだけ好き勝手に泳いでいたメコン様が、あっという間に岸に寄ってきた。それからランディングまでは5分も掛からなかったと思う。ほんの少しのテンションだった。ラインは相変わらず出ていた。ずるずるずるーーから、ずずずずーーくらいにはなっていたかもしれない。(どっちが魚に易しいんだか..)と心の中で悪態をついた。さっさと釣りあげて逃がしてやったほうが負担は少ないんじゃないか?もう本当、それくらい攻防を繰り返して……ようやく目の前にぷかりと浮かぶメコンオオナマズが。観念したのか大人しくぷかりぷかりとガイドに身を任せて浮いている。過去に釣られた記憶を思い出して、じっとしていればすぐに開放されることを彼は知っているのかもしれない。



やった………。

疲れ果てて雄叫ぶのも忘れた。

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とうとう手中に収まったメコンオオナマズ!

何はともあれ無事に釣りあげることが出来た、初めてのメコンオオナマズ。結果的にこれが今回のタイ遠征で1番大きな魚になったので、釣って良かったと思ったし、なんといっても思い出になった。このメコンが掛からなかったら、パームツリーの印象はただ手軽にいろいろ釣れてお魚パラダイスだったわ~だけで終わっていた気がする。


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服のままドブ色の池に入水しての写真撮影も無かった。ヘロヘロにくたばった私は、なかなか魚を持ち上げられなくて、結局、これぞメコンオオナマズ!って感じのカッコイイ写真が撮れなかった。でもいいんだ、今の私はこんな程度。そんな感じで丁度いい。

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重たい(笑)嬉しい雄叫び!

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最後は暴れられて逃げられた(笑)




明日身体が痛いんだろうなぁ……初日にこれじゃあ一体この先どうなるんだろう…最終日まで釣り出来るかしら…先が思いやられるなぁ。そんな贅沢な弱音を吐きながら、パームツリーを後にした。


帰りに寄った屋台の麺をすする手元は、ろくすっぽ箸も握れないほどぷるぷる震えていた。苦笑





明日はいよいよ憧れのピラルク釣り堀、アマゾンBKKへ行きます。